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 ここマウント・イワヤにスカイ道を極めようとやってきた修業僧(?)のお話。我こそは空とぶ達人になるぞ、と真剣に思っている連中だから、そのライフスタイルはとってもFUNである。

 その極めつけのフライヤーが、仲間から『風の神様』と慕われ、本人もすっかりその気でいる小川あつむ先生。先生と呼ばれるからには、文字通り学校の先生であった。一昨年、中学校の先生を辞め、風の良い日はいつでも、この山でスカイ道の修行をやっている。飛び道具はパラとハングの二刀流。今では人生のすべてが飛ぶことなので、その飛びは超過激。特にハングではサーマルをヒットすると太平洋近くまでXCに出ていき、そのたびにこの町の青垣スカイスポーツの方々が仕事を中断しては迎えに行く。それでも風の神様なので、誰も文句も言わない。英語も達人なので、アメリカのハンググライディング誌から、いろいろと情報を教えてくれる。

 その風の神様、小川先生の「僕はサーマルを見た」という話にアセった。すでにその域に達したとすれば、達人を極めたことになる。恐る恐る「それは?」とたずねると、「センタリングをしていると、枯葉がクルクルと舞い上がっていった」。それを聞いてホッとした。風の神様は時々ポカをやらかすのである。ある時、ボクがランディング場でパラグライダーで飛行してくる風の神様を見ていたら、妙に涼しげな格好をしている。よく見ると、へルメット・レスキュー・バリオなどいっさい身に付けずに平然とランディングしてきた。山頂に上がってみると、まるでヨロイカブトのように、道具一式がきれいに並べてあった。

 連日のように風の神様と空中戦をやっている一人に、空飛ぶポリスマン、森恭司がいる。夜勤明けでも何でも、仕事以外はひたすら飛び続けている。左右の両マブタでボールペンを挟める才能を持って空を飛んでいるので、おそらくハングで腕が疲れると、ベースバーを両マブタで挟んで飛んでいるのではないかと思われる。パラでも飛ぶが、上昇したところは一度もみたことがない。これは機体が良くないのではないかと思う。彼とはハングで10年前に出会ったが、その時はプライベートなことは話さず、しばらくして「僕はポリスマンです」とポツリと話した。「何を想って空を飛んでるんや?」とたずねると、「『こんな世の中、おもろないわい!死んでやれ!』と思って飛んでますねん」と言っていた。

 その森君が、時々ポカをする風の神様に、「小川先生はへミングウェイみたいな人ですねー」。「ん?それは?」「老人とボケですわ」。…そばでそのやり取りを聞いていた僕らは笑うに笑えず、困ってしまったのだった。

 このニ人の空中戦に乱入してゆくのが、この山を発見しハングでずっとこの山を飛んでいる波多野君。どこか森の梢に彼の巣があるのではないかというぐらいの存在なのだ。その彼も、昨年、永年勤めてきた自動車やさんを辞めて、これまたスカイ道の修業に入ってきた。週末に来るフライヤーからは「いいなぁ、毎日飛べて」。すると一言「辞めたらいいんや。紙切れ一枚で済む話や」とイワヤ・プータロー・アソシエーション、IPAの入会を勧める。幸か不幸か会員は増えていない。

 次に登場してきたのが新人、加藤文博。トライアルバイクでスーパースターだった彼は、ショップを奥さんとスタッフに任せ、風の良い日はいつも飛びに来ている。トライアルバイクで達人を極めた方なので、達人になるノウハウ(?)をよく知っていて、ともかく練習熱心。どれだけ熱心かと言えば、年末から正月にかけてテイクオフ地点の少ない雪をかき集めてかまくらを作り、その中に寝て飛んでいたくらい。

 トライアルバイクは見かけ以上に危険なようで、何度もケガをして達人を極めた加藤さんは、パニックに強い。練習生がそこらの木に止まってもたいてい自力で降ろさせる。つい先日も、うちと加藤さんチームの女の子同志のニアミスがあった。テイクオフで無線誘導していたボクが「どこ見て飛んでるんや!」と怒鳴った後でとなりの加藤さんの方を見ると「あ、ぶつかったわ」と一言つぶやいていた。たまたま1000m上空で見ていたコメット・チームの入沢君が思わず「ヤバイ!!」と思ったぐらいの出来事だったのだが…。

 今年から修行尼僧(?)となったポンちゃんの飼い主、マキちゃん。彼女のフライトは過激で、特にスパイラルもどきのハイバンクターンでサーマルのセンタリングをかけてくるので、うちのクラブ員にはひそかに「空中で出会ったら近寄るな」と言っている。桜吹雪きのプリント柄のセールが似合いそうな女の子である。そのマキちゃんが1ヶ月前、全財産をはたいて買ったというパラ一式を車から盗まれ、失意のどん底にあった。しょげているのでコタックの機体を貸してやったら「ターンの切れが悪いわ」と一言なのである。先日たまたまTAKにいたマキちゃんに仲間からの「ゴミ捨て場にあったよ」の知らせに、大粒の涙を流していた。

 マウント・イワヤで繰り広げられる空中戦。最初に達人を極めるパイロットは誰か!?この空中戦に参入希望者はぜひTAKへ!

(月刊パラワールド92年7月号より転載)

T.O
只野氏、ハングのランディングチャー台からT.O
タッキング
おっと!タッキング!あぶな〜い!!「たすけてくれぇ〜〜」
網に捕獲
見るも無残かと思いきや、体ごと網に捕獲。ピース。

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