第11回 教習所から飛び出して山へ行こう!

 パラのビギナーにとって、講習場での練習は自動車教習場で練習しているようなもの。ここまではスクールの講習機材を借りて基本的な知識や技能を学習しているレベルで、このようなJHFのA級B級のスクール生は練習生と呼ばれます。

 A級B級の練習生にも2つのタイプがあるようです。一つはスポーツ教養としてA/B級を取得して終了する方々。そしてもう一つのタイプは、最寄りのスクールで自分のパラ用品を買い揃えて、次のNP証へ移行する方々です。

 パラ用品が高いか安いかは、その方の価値観と飛びたい!という意欲によってかなりの違いがあるように思われます。フルセット50〜60万円といえばスキューバ用品やバイク等もありますが、パラの道具はオフシーズンもなく一年中使用できますし、これが手軽に持ち運びできる自分の翼となって自由に空が飛べるのですから。

 さて、ここ十年間のパラ用品の性能と安全性への開発と進歩にはすばらしいものがあり、メーカーからは半年サイクルでいいものがどんどんリリースされています。そのため買い時がむずかしく、ずっと買わないでおこうと思っていたスクール生もおりました。また、パラグライダーは常に紫外線にさらされて劣化していく消耗品です。より高い安全性とさらなる快適さを求めるのであれば、多少無理をしても新しく開発されたものを買うことをお勧めします。(4〜5年前のパソコンやワープロを買っても、楽しくなくてかえって損をした気がするのといっしょです。)ビギナー用のギアは、スクールで相談して選んでもらうようにしましょう。

 自分の翼が手に入ったら、講習場で再度基礎トレーニングを行なって、新しい翼に慣れてください。特に、ライズアップは講習機とのギャップがありますので、しっかり特性をつかんでおく必要があります。

右??

空にも交通ルールがあるんです!

 練習生の頃から気に掛けていてほしいことですが、日頃から山飛びの先輩方のフライトをTOやLDでよく観察しておくといいでしょう。山では、ビギナーからエキスパートまで、さまざまな技能証を持つフライヤーたちが飛び交っています。ニアミスや空中接触は重大事故の原因となりますので、フライトルールは事前によく学習して、シミュレーショントレーニングをしておくことをおすすめします。パラ(ハング)同士の交差、対面、迫越しはすべて右。頭では理解していても、山飛びビギナーの多くがこの事態に直面すると、とっさに「えっと、右ってどっちだっけ……」という状態になりがち。そうなると調和のとれたソアリンクゾーンのリズムがガタガタと音を立てて崩れ落ち、空中には罵声が飛び交い、それがこだまとなって森の小鳥たちまでが騒ぎ出し、山も空もやかましくなるのです。常に自分の右手はどちらか、右手君によく言い聞かせ、それでもわからなくなりそうな人はフライトグローブに「右」と書いておきましょう。


タンデム飛行

 次にハンググライダーも飛行しているエリアでは、まずハングとの空中接触は絶対に避けてください。ハングは腹這いになって飛行しているので上が見にくく、パラのように視界は広くないのです。スピードも速いし、旋回半径も異なります。ビギナーの方は、下から上昇してきているハングやパラがあったら、いち早く回避した方が賢明。私は、ここ数年でパラとハングの空中接触を2回目撃していますが、2回ともハングの方が大きなダメージを受けて落下しレスキューパラを開傘、パラはそのまま飛行を続けることができました。幸いどちらも怪我はありませんでしたが、双方事故の時の恐怖心が精神的後遺症を来し、なぜか飛行を続けることができたパラの方がより精神的ダメージが大きかったらしく、パラをやめてしまったのです。そんなわけもあって、高高度のソロ飛行をする前に、可能であれは最寄りのスクールでタンデム飛行でフライトコースに沿って飛行することをお勧めします。

空のコンディションは太陽と相談して

 ビギナーにとって、ストレスの少ない快適な高高度トレーニングができるコンディションとは、どんなコンディションでしょうか。

 パラグライダーは太陽エネルギーを利用する極めて地球にやさしいスポーツです。太陽の日変化は、日の出から日没まで、まるで人の一生のようです。山飛びビギナーのうちは、朝・タの気流が穏やかでサーマル(熱上昇気流)のパワーが弱い時間帯を選んで練習することをお勧めします。晴天の日中はどうしてもサーマルが強くなり、気流も乱れる時が多いので、避けましょう。特に夕方、日中太陽光線で温まった森林や平野部の上空に発生するアーベントテルミックの上昇気流はとてもマイルドでスイート!ヒギナーにも超おすすめのコンディションです。

 さらにもっと快適にフライトできるテイクオフのタイミングがあります。太陽が雲に遮られておらず、しっかりと野山を照らしている時が狙い目。朝夕晴天の時はサーマルブロー(熱上昇風)が周期的に下から山肌に沿って上昇してきます。木の葉や小枝がざわめき、心もときめいてくるでしょう。このタイミングでテイクオフすれば、より快適にソアリングでき、さらに滞空時間も伸ばせます。

飛ぶ前はイメージ飛んだ後はログブック

 飛び立つ順番を待つ間、目を閉じてテイクオフからランディングまでのフライトコースに沿ったフライトプランをしっかりと組み立てておきましょう。そして、テイクオフとランディングは、キャリアのあるインストラクターにきちんと見ていてもらいましょう。パラのアクシデントの多くが、テイクオフあるいはランディングで発生しているからです。テイクオフ直後、乱気流で機体が潰されたり、ランディングでコントロールミスをして失速させた時なども、インストラクターの的確な誘導とアドバイスがあれば、リカバリーできる場合がほとんど。スクール側が選んでくれた山飛びビギナー向きのコンディションの中で、快適なソアリングが楽しめます。

 安全にランディングしたら、フライトの記憶がクリアーなうちに、ログブックにその時のフライトの記録を書き留めておくといいでしよう。何年か経って、NP証/P証の技能証を取得した時、練習生だった頃のログブックを見れば、子供の頃の絵日記を見るように、懐かしく楽しい思い出が蘇ってきますよ!

 次回『アクシデントからの生還』をもちまして、この基礎講座を修了いたします。

c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 みやぎ夢大使で同席した作曲家の南らんぽうさんが『河はだれのもの』という歌を作って紹介された時、ふと思いついたことがありました。『プロテクト・ザ・ブルースカイ(大空を守ろう)!』地球人、宇宙人全員のものであるこの大空を汚さない努力をして、きれいな空気の中を末永く飛行したいものです。

 今話題になっているダイオキシンがいかに恐ろしいものかは、用語事典を読めばわかります。それが、日常のゴミの中に必ず入っているラッピング用ビニールや買い物に使用するビニール袋、ビニールハウスのビニールなど、我々の生活にはとても便利なものの中にも含まれているのです。現在、フライヤーの数は9万人と言われています。これは、ちょっとした市の人口並です。全国の各エリアで出るゴミはかなりの量になると思いますが、燃やして害にならないものは燃やし、ダイオキシンの元になるゴミは各市町村のゴミ回収に出す……というように、宇宙の果てまで続くブルースカイを守るためのささやかな努力を始めようではありませんか。


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