第10回 大空のキャンバスに自由自在に弧を描く 空のアーティストになろう!

 直線飛行が安定してできるようになったら、TO地点を少しずつ上げて高度をとり、ターンの練習に入りましょう。ビギナーのターンは45度、90度、180度の3つ、大空のキャンバスに様々なラインを描けるようになるので、フライトがとてもおもしろくなりますよ。ターンの基礎は、体重移動とブレークコードで調節します。ブレークコードの引き加減については12月号(第9回)である程度詳しく紹介したので、今回は体重移動と視線に重点を置いて話を進めていきましょう。

オフィスでもできちゃうターンのイメージトレーニング

 さて、いきなりターンのフライト練習に入る前に、地上でのイメージトレーニングを行なってみましょう。講習場のスロープをスラロームで走行しながら、イメージします。

 まずは右ターン。視線は右。ターンする側の右手を下げて左手を上げ、頭の中に美しい円弧を描きながら走りましょう。そこから左ターンに切り換える時は、まずイメージの翼が水平になるように左右のトグルポジションを修正してから行ないます。よく、ターンするのに両方のブレークコードをいっしょに引いてしまうビギナーの方がいらっしゃいますが、ボートやカヌーでターンする時も、例えば右ターンする時は右のオールを水に差して左は上げるように、右に曲がるなら右だけ強く引く。そしてターンする反対側のトグルは緩めてやりましょう。ターン側のトグルポジションが30%ぐらいとしたら、反対側は5%ぐらいの引き加減が最初のうちは理想です。

回転椅子での練習
自宅の回転椅子で、一人ターンの練習に励むTAKの練習生高藤嬢

 体重移動はハーネスに座って翼の下にぶら下がっているので、スキーやバイクのような訳にはいきませんが、ターンの感覚はよく似ていますシミュレーターにハーネスを付けてぶら下がってみるのが一番わかりやすいですが、もっと身近で感覚を味わいたいと思ったら、オフィスで使っている回転椅子でも大丈夫。まず椅子に座って、腕をW字に構え、トグルポジションは耳の横ぐらいのクォーターポジションをとります。左ターン。視線はターンする側の左を見ます。左手を下げて、右手を上げます。左足を曲げて右足を軽く伸ばし、ターンの方向へ捻ります、、そして、左へ体重移動。椅子の上では、左のヒップに体重が乗り、右のヒップが浮きますが、実際にはこの分がハーネスのヒッププレートの傾きとなるわけです。この時、頭を内側に傾けるビギナーが多いのですが、頭の位置はあくまでも体の中心に置くように。デスクを手でそっと押して回転を与えてやると、実際に左右に回転します。同じ要領で右ターンもやってみましょう。ターン切り換えの時は視線を移し、イメージの翼を水平にしてから、次のターンに入る……というように、ターンのめりはりをしっかりつけるのがポイント。じゃあ、360度ターンもやってみましょう。くるくる回る回転椅子のパラは、オフィスや学校の昼休みなど、その気になればいつでもできます。週末のフライトに想いをはせ、人目も気にせず回転すれば、日頃の憂さも晴れ、気分もリフレッシュすること間違いなし!

いよいよ空中でやってみよう大切なのは、視線!

 それでは、いよいよインストラクターの指導のもと、まずは90度ターンの練習から始めましょう。スラローム走行や、回転椅子での自主トレが試される時です。ブレークコードのコントロールにはタイムラグ(時間差)があるので、早め早めにゆっくりとやるのがポイントです、次に180度ターンは、ターンの開始と終了がわかりやすいよう、まずランディング方向に機種を向けて一度左右どちらかに90度ターンを入れてから開始するといいでしょう。こうすれば、常にランディング方向に視線が向くので、ターンの角度がわかりやすく、ブレークコードの引き加減と体重移動のメリハリがきちんとして、気分的にも安定します。

 ターンとターンの切り換えの時は、翼を水平に安定させ、十分にスピードを確保してから行ないましょう。大切なのは、90度ターンでも180度ターンでも視線。次にターンする方向に、まず目を向けてからターンを開始することを習慣にするように。そう、バイクやスキーでターンする際のあの凛々しい視線をパラのターンでも忘れないでほしいのです。特に、ランディングアプローチの時の90度、180度ターンは、ランディング地点から目を離さないようにしながらターンして高度処理を行なうことが、正確に安全に地上に生還する秘訣であるといえましょう。


ターンのイメージ

 地上生活に慣れ切っている我々地球人は、いくら訓練しても空中に浮遊したら地上にいる時の三分の一の能力しか発揮できないと言われています。まして、ビギナーにとって、空中浮遊とはまさしく恐怖心と快感が紙一重。ついついオーバーコントロールになりがちです、これが原因で、ターンの練習中に翼が前後にピッチングしたり、横にローリングしてしまいがち。まずは気持ちを落ち着けて、早め早めにゆっくりとコントロールを行ない、翼を安定させましょう。ターンの基本は、糸の下に重りをつけて振り回した時のように、円錐形の底辺の周辺をターンしている自分自身を頭の中に思い描いてください。ターンは、スピードと回転弧に合わせて体重移動の加減を行ないます。大空に一定のスピードで美しい円弧が描けるように、ブレークコードと体重移動のバランスを調整する練習を重ねていきましょう。

空の上では無線が大切な命綱

 ビギナーのターンの練習は、インストラクターの誘導で練習しましょう。無線誘導の場合、無線トラブルで誘導が聞こえず、パニックに陥るということもしばしば。日頃から無線機に関心を持ち、4級アマチュア無線の免許を取り、無線の取扱いに手慣れていることが、大切な命を守ることにつながります。また、無線機は、ツリーランなど不慮の事態に至った時にもコンタクトできる唯一の手段だということも頭に入れて、常に携帯しておくこと。

 次は、覚え立てのターンを使ってのソアリングとフライトルールの基礎について説明します。

c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 私が岩屋山に住み始めた頃、ラリー・チュード(488.19kmというFAI公認のハング距離飛行記録保持者)が、一週間ほど泊まって行った。その時、ラリーは、『飛行中はできるだけ力を抜くんだ。そう、まるでフィッシングポール(釣竿)を持つような感じで、軽〜くコントロールするのがコツさ』と教えてくれた。

 私は、さっそくこの教えをパラグライダーに応用し、スクール生にも『フライト中は体全体をリラックスさせ、掌に気流の変化が伝わってくるように、トグルはできるだけ軽く握りましょう』と教えていた。

 その直後、元気者の柿本のとっつぁん(74歳)が飛行。年はとっていても、大変素直なスクール生だ。ところが彼のフライトフォームをよく見ると、トグルに手首を掛けて両手をオバケのようにダラーンとたらしているではないか。

 後でどうしたのかと聞いてみたら、私の教えを忠実に守って、両手をリラックスさせていたのだという。日本語はむずかしい。


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