第9回 ついに私も空デビューまずは直線飛行から

 ワクワクの初フライト。たとえわずかな高さ、わずかな距離でも、生まれてはじめて自分の力で空を飛ぶのです。感激!と同時に、ちょっとは不安もありますよね。パラグライダーは、バンジージャンプやジェットコースターと違って、自分の翼を自分自身でコントロールして飛ぶのですから。そこがパラの醍醐味なわけですが、では翼を正しくコントロールするというのはどういうことか、その方法についてこれから説明していきましょう。

 パラグライダーは究めて物理的なスポーツです。適した風と気流で、レベルに合った翼を正しく使えば、まず安全に楽しくフライトできると思っていいでしょう。

ブレークコードの引き具合を覚えよう

 パラのコントロールは、ブレークコードと体重移動で行ないます。まず、スピードですが、これは両翼端に付いているブレークコードを引いてコントロールしましょう。

 この時、パラのブレークコードのコントロールには、タイムラグ(時間差)があるということを、頭に入れておいてください。これまで別のスポーツ、たとえばスキーやスノーボード、ハイクや自転車で体験してきたシャープなコントロール感覚は、ここで一旦捨てること。パラの場合、ブレークコードを引いたり緩めたりしてもすぐには反応しないので、ついオーバーコントロールになりがちなので注意しましょう。左右のブレークコードのグリップは、通常トグルと呼ばれています。ブレークコードの引き加減をトグルの位置で説明すると……

●フルグライド…
左右のトグルをすべて緩めた状態。スピードは一番出ますが、その分沈下も速くなります。

●クォーターブレーク…
全体の上から四分の一のポジション(25セントのこともクォーターと言いますね)。翼がスムーズに滑空する状態です。

●ハーフブレーク…
文字通り半分(胸の辺りまで)引いた状態。減速し、沈下率がやや大きくなります。

●フルブレーク…
ブレークコードをすべて下げた状態。飛行中にこれをやると、フルストール(失速)に入るので注意。

 だいたいの感じはつかめたかな?では、この4つのコントロールポジションを、テイクオフ〜直線飛行〜ランディングの過程でどう使い分けるか、順を追って説明しましょう。まずテイクオフの場合、弱風なら、フロントライザーを放した後のトグルの位置はクォーターブレークくらいでOKです、風の強い時は、翼が早く立ち上がってくるので、ハーフブレークで頭上に抑え、ゆっくりと戻してフルグライドでスピードをつけてやりましょう。

 次は直線飛行。LD方向に地上の目標物を定めて、TOからのフライトコースを決めます。テイクオフして滑空状態に入ったら、トグルの位置はクォーターブレーク。フライトコースに沿ってストレートに風が入ってくれば、簡単にコースに沿って飛行できます。が、斜めから風が入ってくる場合、風下側に流されてフライトコースを外し、LDで風下側に引き摺られたり……といったこともありえます。そうならないためにも、風が斜めから来る場合には、風が来ている側のブレークコードを軽く引いて、翼を少し斜めにして風下側に流されないように軌道修正してやりましょう。そう、カニさんのようなフライトです。

 講習場の緩やかなスロープで、少しでも距離を延ばせるようにフライトトレーニングを続けると、その翼の最良滑空スピードのトグルポジションがわかってきます。また、その時々の気流で、もっとも沈下率が少なく、距離も伸びるトグルポジションがあるものです。何度もフライトトレーニングをするうちに、その状況状況に一番合ったトグルの位置がわかるようになるでしよう。

直線飛行
ビギナーの直線飛行

 さて、ビギナーが一見穏やかな風で直線飛行している時に、突然強い向かい風に遭遇することがあります。地上から見ると、パラグライダーというものは止まっているようにすら見えるもの。いきなり強風にぶつかった場合、思わずびっくりして、ほとんどの人がブレークコードを引いてしまいがちです。日常的な地上での対地スピードに慣れていれば無理もないことかもしれません。しかし、これが原因でストール(失遠)に入ると、非常に危険。こういう場合は、自分の気持ちとは反対に、ゆっくりとトグルを緩めて翼にスピードを加えてやりましょう。自分は今、空を飛んでいるんだという自覚を持って、感覚を対気スピードに切り換えてゆくのです。

 そして、ランディング、風に正対して降りるため、LDが近づいたら翼を水平に保ち、ハーフブレークにしてスピードを落とします。地面が迫ってきたら、ブランコから降りる時の要領で足を伸ばします。あくまでもソフトにやさしく、地球にタッチしましょう。

テイクオフとランディングではお尻をいじめすぎないように

 ビギナーのうちはだれでもやることですが、テイクオフで気持ちを抑え切れずにハーネスシートに飛び乗ってお尻をバーン!もっと飛んでいたかったのに……と、ランディングでもお尻をバーン!自分で自分のお尻をバンバンしないで下さいね。

 初フライトでは、インストラクターのゴーサインを待たずに、勝手に飛び立ってしまわないこと。はやる気持ちはわかりますが、刻々と変化する風や気流、講習場全体の安全などは、キャリアを積んだインストラクターがしっかり把握しているので、初めのうちはその指示に従いましょう。テイクオフは、風さえよければ走っているうちに自然と滑空していくものです。離陸後もエアーウォークくらいでちょうどいい。安全なランディングは風に正対して、スムーズにスピードを落とし、足にショックを与えないこと。テイクオフとランディングについては、日頃からハーネスのシミュレーションにぶら下がって、シッティングとスタンディンクの練習を繰り返しやっておくと、実際の場面でも、とてもカッコ良くできるよ。

 次回は、ブレークコードに加えて体重移動によるコントロール、ターンについてお話ししましょう。

c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 岩屋山麓には『丹波少年自然の家』と呼ばれる神戸方面の小学生が野外活動をする大きな施設があって、ここに来る子ども達は、上を見れば昼間はパラ、夜は星を仰ぎ見ることになる。

 そんなわけで、時々好奇心旺盛な先生方が「子どもたちに、ぜひ飛行の話を」とやって来るわけだ。非行の話はともかく、飛行の話なら快く引き受けてやろうじゃないか、と出かけて行くのだが……。

 昔から子どもというものは、大人の話をおとなしく聞いてくれない。しかし、何度か経験を積むうちに、だんだんと相手(といっても小学生だが)の様子もつかめてきた。最近は、こちらから相手が興味を持っていることを質問させる。これが、世代を超えたコミュニケーションをスムーズに進行させるコツなんだな。

 ハイ、ハイ、ハーイと、たくさんの手が挙がる。「一番最初に空を飛んだ時は、どんな気持ちでしたか?」「コワカッター」の答えに、全員ウン、ウンとうなずいて、その後はみんなで「そーらを自由に、とーびたーいなっ」とドラエモンの歌を合唱。平和なひと時であった。


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