第8回 草原を走り回ってライズアップの達人になろう!!

 パラとハングの大きな違いは、翼の形が出来上がっているハングに対して、パラは翼形を自分で作るという点でしょう。そこで、エアインテークから入った空気が翼の内部に十分な圧力を加え、すぐにも飛び立てる翼の位置にコントロールしてやる「ライズアップ」が、重要な作業の一つになってくるわけです。

 それでは、ビギナーにとってライズアップの基礎とはどんなものかを説明しましょう。

フロントライズアップ

 ライズアップの方法は二通りあります。一つはフロントライズアップ。これは文字通り前を向いて行ないます。もう一つはリバースで、後ろ向きで行なうやり方です。 今回は、ビギナーのためのフロントライズアップの基礎について説明しましょう。練習するロケーションとしては、気流の穏やかなゆるいスロープ(斜面)がベター。さらに、スロープに沿ってアゲンスト(向い風)が2〜3メートルくらい入っていたら最高です。風の様子を観察するには、吹き流しを立てましょう。吹き流しがない時は、ビニールのひもでも構いません。少し距離を走るので、足元のチェックも忘れずに。切り株、溝、草、穴、氷、雪、水溜りなんかはありませんか。足元にそういった障害物があると、走り出した途端にコケたりします。

雪上のライズアップ
雪上のライズアップ。勢い余ってコケちゃいましたTAKさん

 さて、フロントライズアップのメリットは、比較的弱い風でもテイクオフできることですが、デメリットは自分でラインチェックできないことです。というわけで、ラインチェックは事前に完璧に行なっておきましょう。そして、ライズアップの体勢に入ったら、まず足元とハーネスの周りがクリアになっているかチェック。ラインを踏んづけていたり、ハーネスにラインが引っ掛かっていたりすると、失敗します。

 フロントライズアップを成功させるコツは、まずカッコいいフォームを作ること。視線は自転車やバイクを運転する時と同様、できるだけ前方を見ます。そして、自分が走るラインの先に地上の目標物を決めるといいでしょう。人、犬、猫は動きますのでダメよ。 腕の構えは、アルファベットのWのフォームが良いと思います。トーグルを持つ手は耳の位置より少し後ろがベター。背筋を伸ばし、足首と膝が軽く前傾し、腰の重心の位置を少し低くします。このようなフォームを作り、走りながらキャノピーが立ち上がっていく感覚を体全体で感じ取るようにして、ライズアップしてみましょう。

 その時ほとんどの方は右が先に立ち上がる傾向にあります。ふつう左手左足に比べて右手と右足の筋力の方が強いので、これは当然かもしれません。バーベルを持ち上げる時のように、力は左右均等に入れるように心掛けましょう。フロントライザーを持つ手がWからVになるように、体に沿ったラインで立ち上げていきます。この時、エアインテークがつぶれて立ち上がってしまうとしたら、それは視線が下を見ていることと、W型の腕が耳の位置より前に突き出していることが原因です。


扇沢さん
扇沢さんの華麗なライズアップ

風が強い場合 弱い場合

 次にフロントライザーを放すタイミングとトーグル(ブレークコード)の引き加減について説明しましょう。

 風が強く入っている時は、少し早めにフロントライザーを放し、力強くゆっくりとトーグルをハーフブレーク(胸くらいの位置)まで引き、ゆっくりと戻します。

 風が少し強い場合、足が止まりそうになりがちですが、足首と膝を前傾させ、重心を低く、進行方向のできるだけ前方を見ながら前進します。イメージとしては、バスケットのドリブルのようなフォームを思い描いてみてください。逆に弱めの風の時は、キャノピーのテンションが体全体で感じとれるタイミングまで待って、ゆっくりとフロントライザーを放し、トーグルを肩より低めの位置まで下げて前進します。イメージとしては、そう、バレリーナが草原を走っているような感じかな? 風の強弱に関わらず、イノシシのように猛進するのはとてもデンジャラス。ラグビーやアメフトじゃないんですから、コケたらかなりダメージ大きいです。

 というわけで、ライズアップに関しては、か弱い女性の方が感覚に頼って立ち上げるのでいい結果が出やすく、逆に図体が大きく力の有り余った人ほど、力で立ち上げようとするので、どうしてもオーバーコントロールになりがちです。パラに必要な分だけの力を、そっと使うように心掛けましょう。

 ライズアップは、手と足が同時に動いて翼をコントロールします。でも、手を意識すると足が止まり、足を意識すると手の動きが止まりがち。ドラムをたたくように、手足が同時に動かせるまで練習しましょう。

ライズアップの失敗例とその原因

●シューティング●

 キャノピーが頭上を通過して前に走ってしまう状態。勢い余って、垂直に立ったキャノピーに自ら突っ込み転がり込むことも。これは、トーグル(ブレークコード)の引きが甘いのと、戻すタイミングが早すぎるのが原因です。

●失速●

 キャノピーが立ち上がったのに、後ろに落ちてしまった。これは、トーグルの引き過ぎで矢速してしまったからです。トーグルのコントロールには時間差があり、作動するのに少し間がありますから、中国の太極拳並みのゆっくりした力強い動作で行なうのがベターです。

キャノピーを上げたまま歩いてみよう

 直線的に走るライズアップができるようになったら、今度はスロープの大きなS字を描くグランドハンドリングにトライしてみましょう。

 もしキャノピーが左に傾いたら、右のトーグルを引き、体は傾いている左側に移動します。逆に右に傾いたら、同様に左のトーグルを引き、右に移動します。ビギナーのうちは、傾いている方に移動するということが理解しにくいようですが、何度かうまくいくと、手品の種証しのようにナーンダと納得がいくでしょう。このように、常にキャノピーを美しい翼形に保ちながら……ということを念頭に置いて訓練すれば、フライトのイメージトレーニングとして、また、テイクオフ時のキャノピーの軌道修正のトレーニングとして、とても役に立ちます。

 キャノピーといっしょに草原を走り回っていると、いい汗かきますよ。そのうちにキャノピーが正しい角度で立ち上がって、水平が保たれ、風の力、走るスピード、斜面の落差などで揚力が発生した時、体がフワーッと浮いてきます。このタイミングで、手にしているトーグルをチョン!と引くとテイクオフ!

 次回はいよいよ直線飛行に入ります。

c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 近未来、バイオテクノロジーで鳥人間を造ることも可能というローマ法王真っ青のニュースがありましたが、すでにそれに限りなく近いと思われるフライヤーがここ岩屋山に生息していますので、お知らせします。

 2〜3年前に岡山から来て住み着いている蔀(しとみ)君。この町で仕事をしながらパラで遊ぶ好青年だ。機体は紫外線劣化で新聞紙同様になるまで300時間使いきり、メーカーさんもびっくり(マネしないでください)。この春は直線50キロ先の氷ノ山まで飛び「仕事に遅れる」とアウト&リターン。まさにアマチュアフライヤーの鑑のようなライフスタイルだ。

 ここだけの話だが、さらにすごい現場を目撃してしまった。町道の脇でパラを広げ、リバースのライズアップのまま斜面をかけ上がり、くるりと前を向いたかと思うと、電柱の倍くらいの高さまで上がってしまった。そして、そのまま10分くらいソアリングをしていると思ったら、いきなりコーンとサーマルをゲット。あっという間に大空へ。おいおい、平地からだぜ…。

 夜は森の木の枝に止まって寝ている(と想像する)。


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