第7回 プレフライトチェックは怠るべからず!!

 プレフライトチェックの中で、キャノピーのチェックの次に大切なことに、ハーネス、レスキューパラのチェックがあります。さて、長年パラを指導していると、信じられないことに遭遇することがあるもんです。

パラだけが飛んでった〜? ナニー?!

 ライズアップしてみごとにキャノピーが立ち上がり、そのままパラだけが飛んで本人は地上で石の地蔵さん。突然こんなことが起きると周囲は一瞬にして『ナニー?!』状態となります。そうです。ライザーとカラビナのフックインを忘れたのです。ハンググライダーの場合、命取りになります。パラはスピードもゆっくりで、スロープを走るのでまだ救われますが、クリフ(崖)のテイクオフとなると、とてもデンジャラスなので注意しましょう。

 次に、元気者に多いトラブルですが、チェストベルトやフットベルトを付け忘れてテイクオフしてしまう人がいます。チェストベルトを付け忘れて飛んでしまうとどうなるでしょうか。

シュミレーター
シュミレータで体重移動

 まずライズアップでうまくいきません。運悪く飛んでしまえば機体は左右に揺れ(ヨーイング)、とても不安定な状態になります。そうなった場合、失敗した自分を責めている時間があれば、気を取り直して以下の操作をしましょう。まずトーグルを手首に通してブレークコードを引き過ぎないように注意しながら、両腕をライザーの外側から抱き込むようにして、広がっているハーネスを内側に寄せます。そしてチェストベルトを掴み、ジョイントします。普段から「もしも」の時のために、チェストベルトの空中での調整を含めて、地上でシミュレーターにぶら下がってシミュレーションしておくとよいでしょう。

 フットベルトの付け忘れは、ライズアップで走っている時に、ハーネスがワキの下までずれ上がってくるので、ほとんどの場合、本人も周囲も気付きますし、そのまま走ってもライズアップには失敗するでしょう。

 それからハーネスチェックでよくあるのは、前回まで調子良く飛行していたのに、今回は妙にしっくりいかないということ。原因としては、だれか他の人がハーネスをいじってしまうことや、それまでの飛行中にベルトが緩んでしまったことなどが考えられます。そんなトラブルに巻き込まれないためにも、ハーネスのシミュレーターにぶら下がって、事前のチェックをしておくことをお勤めします。スクールハーネスを借りて講習を受けている方も、講習前に時間があれば、使用するハーネスを装着して、自分の体に合わせて調節したらいいと思います(スクールがOKであれば)。

 ではシミュレーターにぶら下がってみましょう。まずハーネスに両腕を通し、フットベルト、チェストベルトを軽く調整してから取り付けます。ロープ(ライザー)にカラビナをフックインします。ハーネスを付けて、立って、座って、立つ、の動きをシミュレーターにショックを与えないように反復練習してみましょう。


シートにいれる
トーグルを片手に持って、もう片方の手でシートを入れる

 立った状態から座った状態になった時、お尻がスムーズにハーネスのシートに入ることが大切。入らない原因はフットベルトの調整がきついことや、お尻が滑りにくい素材のウエアーを着ていることなどがあります。コツとしては、座る時フッと息をはき、両ヒザをお腹に抱えるようにするとベターでしょう。それでもお尻が入らない時は、トーグルの付いたシミュレーターならば、両トーグルを片手に持って、片手でハーネスのシートを押してやるといいでしょう。

 同じ方法で空中でのハーネスの調整、無線機、マイク、バリオ、カメラ等の作業をシミュレーションしてみましょう。よほど安定した気流でない限り、トーグルから手を離してのこれらの調整や作業はとても危険です。時として機体が潰れたり、ネガティブスピンに入ったりします。

 もし身近にシミュレーションがない場合でしたら、地上でハーネスに座って、フライトフォームをイメージしてベルトの調整をやってみましょう。これならどこでもすぐにできます。

レスキューパラはアクセサリーじゃないよ!

 次はレスキューパラのチェックです。レスキューパラがハーネスに付いている位置は、前、横、後、下、とあります。技能や指導によっても異なりますが、いずれの位置でも事前のチェックで大切なのは、トーグルのピンがきちんとインナーコンテナーを止めている輪に入っているかということ。グリップが正しい位置にあるか、チェックしましょう。

 レスキューパラはアクセサリーではありません。いつ投げる時が来るか予測がつかないものなので、半年に1回、少なくても1年に1回は最寄りのスクールへリパックに出しましょう。日本は湿気が多い上、狭いコンテナーの中にギューギュー押し込まれています。定期的にリパックに出し、開傘した状態でカゲ干しして空気にあて、同時に湿気を抜いてやることが必要。リパックに出すタイミングとしては、天気の良い日が続き、空気が乾燥している時がより効果的でしょう。

 パラグライダーもハーネスもレスキューパラも全て、プレフライトチェック完了。ライザーをカラビナにフックイン。トーグルもライザーも正しく持ち、全てOK。でもヘルメットのアゴひもをしてないよー。スクール用で普及しているキャップ型のヘルメットを後前反対に被ってるよー。山寺の和尚さんみたいで、結構ウケますけど。

 それから周囲が気が抜けて、本人はエアーが抜けるのが、今、普及し始めているエアーバッグの後ファスナーの締め忘れ。これは本人がまるっきり気が付きませんので、親切に教えてやって下さい。(私の時もお顔いします!)

 次回はいよいよライズアップについて話します。お楽しみに!

c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 今年からPWCを転戦し、風来坊となった只野正一郎君が6月に行われた中国戦での貴重な体験。

 PWCを戦うたび、だんだん怖さが増してきた只野君、いつでもレスキューパラを引けるようにグリップを手前でセットしてテイクオフ。ところが、テイクオフして間もなく引いてもいないレスキューパラがパラリと落ちて開傘してしまった。運良くクリフ(崖)に引っ掛かり宙づり。『ラッキー!』と叫んで下を見ると、800メートル垂直のカベ。ゾーっとして『神様、お願い。生きて帰ったら親孝行します』と祈ったかどうか知らないが、信じられないことに、どこからともなく『ニーハオ』と中国の方が現れた。手を放せばどちらも落ちる。命がけのフリークライミングのすえ、生還。

 原因はレスキューパラのプレフライトチェックミスと本人も認めていた。今度帰国したら、この基礎講座を良く読ませよう!うん。


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