最終回 アクシデントからの生還

 いくら注意していても発生するのがアクシデント。『ミスをするから人間です』と言ったのは、あのメルセデス・ベンツの広告ですが、では、いざアクシデントに巻き込まれてしまった場合、生きて帰るにはどうしたらいいのでしょうか。

潰れと空中接触は迷わずレスパラを投げる

 フライト中、機体が潰れて回復不能となったり、空中接触でパラ同士絡み合ったりした場合には、ためらわずレスキューパラを投げましょう。レスキューパラは、定期的なリパックを行なってさえいれば、確実に開傘します。4ヵ月に一回くらいの割合でショップにリパックに出す際、汚れていない広い室内でレスパラを投げてみるといいですね。まずグリップを強く引き、インナーコンテナを取り出し、インナーコンテナごと思い切り投げる。どれだけの力が必要かわかります。実際には遠心力が加わり、心理的にもパニックに陥っていますので、地上のシミュレーション通りにはいかないでしょうが、これだけだってリパックの度に実行すれば、年3回のキャリアが積めるというもの。サーマルコンディションがかなり荒くなる時間帯までフライトしていない限り、山飛びのビギナーがレスパラを投げるような事態はそうないはずですが、空中接触等の不可抗力の事態もありますので、常に備えておいてください。

感電したくなかったら、電線マンにはゼッタイ触れない

 次に、電線に引っ掛かってしまった場合。救出しようとして引っ掛かったフライヤーに直接触れようものなら、アース状態になり感電してしまいます。この場合、地上からあわてて触れないというのが救出の基本。ではどうするかといえば、すぐに電柱についている番号をメモして、最寄りの電力会社へ電話します。すぐにバケット車が来てくれますので、救出は電力会社の専門の方にやっていただきましょう。電線というものは山や林をバックにすると見えにくく、普段からエリア内の電線の位置を確認しておき、低空では近寄らないように。

ツリーランしてしまったら、レスキュー隊呼んでひたすら待つ

 森林の上を飛ぶエリアが多い日本では、レスパラを投げるよりツリーランの方が確率が高いようですが、それだって外国の岩だらけの山よりは安全。一度ツリーランすると決めたら、枝振りの良い木をめがけて潔くドーンと行きましょう。無事に(?)ツリーランできたら、しっかりした止まり木に足場を作り、ハーネスから山沈セットを取り出して、まずは自己確保してください。そして最寄りのスクールのスタッフの方へ、無線で、怪我の有無・現在地・地上までの高さ・回収の難易度等を落ち着いてはっきりと報告します。スクールや他の方へ迷惑を掛けまいとするあまり、自力で地面に降りようとあせりすぎ、無事ツリーランできたその後で地上に落ちて大怪我をしたという例も多いのです。自己回収をあせらずに、まずはレスキュー隊を呼ぶ。これが基本。

 森の中のレスキューの方々に自分の位置を知らせる方法としては、無線より笛(ホイッスル)がベターです。もし山沈の現場近くに居合わせたら、レスキューの方といっしょに現場へ行き、できる範囲内の手助けをして、ツリーランの実際を学習しておきましょう。山沈もまた、レスキューパラ同様、普段からロープワークや8カンの使い方、懸垂下降の方法等のシミュレーショントレーニングをやっておくといいですね。そう、それに加えて木の枝などで身体を傷つけないよう、ビギナーの皆さんも、常にパラ用フライトスーツを着てフライトする習慣をつけておきましょう。

水沈したら、装備を外しさっさとキャノピーから離れる

 パラグライダーはあくまでスカイスポーツの一つですが、時として水につかまり、マリンスポーツと化してしまうこともあります。

 パラグライダーの翼は自重7kgととても軽いものなので、水の恐ろしさをついつい忘れてしまいがち。昨年来普及してきているギアの一つに、ハーネスに取付けるエアバッグがあります。180リットルの体積に空気が入るのですが、これが水だったらドラム缶一本(約200リットル)近くです。腰が抜けますね。この現実を理解してください。

 キャノピーのエアインテークの中にすべて水が入り込んだら、もう人間の力では持ち上げることはできません。私自身の体験ですが、七、八年前に河原にランディングしたところ、横を流れる小川に翼端をつけてしまったことがありました。歩くよりゆっくりしている川の流れなので安心しておりましたが、そのうち今まで体験したこともないものすごい力でゆっくりと川に引き摺り込まれそうになり、パニック状態になりかけたものです。幸い近くにいた仲間に助けられましたが、そうでなければ、たかだか50センチ位の水に溺れていたことでしょう。

 というわけで、もしフライト中に河川や海、湖、沼などに着水することが予知されたら、着水前にハーネスのチェストベルトとフットベルトのジョイントをはずし、着水と同時にできるだけ早くハーネスをくぐり抜け、パラグライダーから離れるべし(たとえローンが残っていても)。そして、たとえその現場近くに居合わせたとしても、うかつに泳いで近寄らないこと。いくら泳ぎに自信のある方でも、水の中はラインがいっぱいで、足に絡みついて非常に危険だからです。

チャンプと
PWC96/97/98(?)のチャンプが歌う『風に吹かれて』

 このように、個人スポーツであるパラグライダーも、ひとたびレスパラ・電線マン・山沈・水沈等のアクシデントが発生すると、スクールのスタッフ及びクラブの方々のチームワークとなるわけです。そのことを忘れずに、もし、これを読まれているビギナーの方々が、不幸にもアクシデントに巻き込まれるような事態となっても、あわてずあせらず落ち着いて行動し、かならず生還してください。

 1998年、今年こそ事故のない年になりますように、と願いながら基礎講座を修了いたします。一年間ありがとうございました。


c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 アメリカはシアトルで工場を経営するスクール生の長沼さんが、2年振りに顔を出した。以前、ここ岩屋山でフライトしている時、ちょっと畑に足を踏み入れただけで、地主でもないオッサンから3万円も脅し取られたという経験を持つ彼は、アメリカへ行ってもパラを続けている。「あちらでは、すべてにおいてスケールがでかいんですよ!」と話してくれた。

 最近パラが盛んになってきてはいるものの、飛行機でのフライトの方がまだまだポピュラーなアメリカ。そこで、彼もパラ一機分の予算で飛行機のライセンスを取得した。その時にも、体感だけで飛行するパラの経験や学習がとても役に立ったそうだ。

 ビギナーの皆様も、そのうち機会を作って、熱気球・スカイダイビング・セールプレーンといったさまざまなスカイスポーツを経験してみれば、空の知識も幅広くなり、パラもますます興味深いものとなるだろう。

 21世紀はスカイスポーツの時代にしたいものである。


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