第5回 センスのいいフライヤーになろう

 前回まではパラグライダーがどんなロケーションでフライトするかを学習したので、今回はちょいとひと息ついて、ビギナーが最初に身につけるモノについて話してみましょう。

 体験フライトの時は、とりあえず普段来ている洋服の中でお気楽にフライトしようと考えるのが普通です。(スクール側も、はじめての人にはそのように指示します。)そうなると、たいていの人は、長袖のトレーナー/ジーパン/スポーツシューズ(トレッキングシュー ズ)/軍手といったお馴染みの格好になるわけです。

 でも、何度も体検するうちにスクールのコースに入るほどハマッてしまったという場合、身につけるギアにしても、一つひとつ考えを持って早めにそろえていきたいもの。安全・衛生を考えても、ヘルメット・シューズ・フライトグローブは、まず最初に揃えましょう。

ヘルメット

 選ぶ基本は、フィット感と視界がいい物。特に女性の方は、クラッシュの際の顔の保護を考えて、キャップよりフルフェイスの方が安全でしょう。眼鏡をかけている方は、自分の息で曇らない物を。

フライトシューズ
シューズの違い

フライトシューズ

 今やジョギングシューズ・ウォーキングシューズなどはポピュラーで、誰もが一足は持っているでしょう。もちろん最初はそれでもいいのですが、パラグライダーにはやはりパラ用のシューズが一番です。

 理由の一つは靴底(ソール)の堅さにあります。ビギナーのうちは、基礎トレーニングはどうしてもスロープ(斜面)を利用して行われ、斜面を登ってはかけ降りるという運動になります。スポーツシューズは、平面を走る・歩くといった運動がしやすいようにできているので、それで斜面を登るにはソールが軟らかすぎて、すぐ足が疲れてしまう。その点、パラ用のシューズは、靴底(ソール)が登山(トレッキング)用にしっかりした作りになっており、斜面を登り降りする際も足の疲労が少なくなるのです。

 理由のニつ目は、足首の保護です。ご存知のように、パラグライダーは平均24m2の翼を頭上に立ち上げてからフライトするわけで、言ってみれば、ヘッドの重いハンマーを立てたようなバランスです。これに不自然な力が加わってバランスを崩すと、足首にかなりの負荷がかかり、足首の捻挫や骨折、アキレス腱断裂といったケガにもつながりかねません。足首をサポートするハイカットのシューズとなると、今流行のアウトドアシューズがまっ先に思い浮かぶでしょうが、やはりパラのフィールドにおけるニーズで開発された各パラメーカーのシューズがベストでしょう。

 各スクールで、自分の足に合ったパラ用シューズをお選びください。いい靴が見つかったら、それにさらにインナーソール(衝撃吸収ソール)を入れれば、なお安心。私は、以前スポーツメーカーのアドバイザリースタッフをしていたことがあり、その時の実験で、衝撃吸収マットの上に5mくらいの高さから生卵を落としても割れなかった、という事実を目の前で見てしまいました。以来、私のシューズには、パラ用に限らずテニス用ランニング用すべての靴底に衝撃吸収マットが使用されています。

フライトグローブ

 ビギナーは軍手でOKとはよく聞くことですが、スクールの現場では、ライズアップの時フロントライザーが滑って手から離れ、失敗するという事態がよくあります。軍手は値段もやすいし便利なのですが、軽くスリップ止めのついたものを使うのがベター。代用できる物としては、バイク用・サイクルスポーツ用・アウトドア用のグローブなどが挙げられますが、そう高い物ではありませんので、どうせ買うならやはりパラ用をお勧めします。

 ここでフライトグローブに関する私の失敗談をひとつ。その日は夏の暑い日で、うかつにも素手のままテイクオフした私は、すぐに強烈なサーマルにつかまり、雲まで吸い上げられそうになりました。他に方法もなく、素手のまま翼端折りをし、旋回を続けるのですが、なっかなか降下しない。そのうちラインは指に食い込んでくる。痛くてたまらないが、ここで止めるとさらに恐ろしいことになるので、とっさにウェアーの袖を素手に巻き付けて、なんとかランディングまでもっていきました。これからますます暑い日がやってきますが、これを読んでいる皆さんは、いくら陽射しの強い真夏日だからといって、フライトグローブは忘れずにね。

サングラス

 紫外線いっぱいの中でフライトするので、サングラスも必要不可欠。視界が広く、顔にフィットする物を選びましょう。ファッション性を重視するなら、ヘルメットとのマッチングも大切、クラッシュした時のことを考えて、ガラスの物は避けましょう。

タミガー
'96ワールドチャンプのファッション、クリスチャン・タミガーのテイクオフ。ウェアー・ヘルメット・シューズに注目あれ。

フライトスーツ

 そして、いよいよ一番気になるフライトスーツですが、まずはパラ用のフライトスーツとは。どんなものかを考えてみましょう。フライト中は、常に風にさらされているので、ウィンドブレークをしてくれる物がいいでしょう。といっても、バタバタと風圧になびいてはフライト中の有害抵抗となるので、窮屈にならない程度にスリムで、ハーネスの中で快適に体重移動できるパターン(形)を選びましょう。

 ビギナーのうちは、講習場のスロープでの練習が多く、運動量に比例して汗も多くかきます。その上、フライト中は100Mの上昇(下降)で1度という気温変化があり、快適なベンチレーション(体温調整)機能が高いということも、良いフライトスーツの条件の一つといえるでしよう。

 フライトスーツは、3シーズン用・冬用・夏用と3タイプぐらいに分かれていますが、一般には、3シーズン用を買って、中に着るウェアーをその日の気温に応じて変えてゆけばOK。冬は着ぶくれするとハーネスの中での体重移動がシャープにできなくなるので、薄手のインナーウェアーの重ね着がお勧めです。

 風の息に合わせてフライトするスポーツなので、フィールドを動き回っている間は、その季節に合ったフライトウェアーでOK。山を飛べるようになったら、たとえば夏は半パン・Tシャツで風待ちをし、いい感じの風になってきたら、その上からフライトスーツを着込む、といった具合に調整しましょう。

 街中でスノーボードウェアーが流行ったように、そのうちパラグライダーウェアーが流行するかもしれません。機能を追及するとアートになるとかで、それは空から舞い降りてくるピーターパンのようなウェアーかもしれないですね。ここ兵庫の山奥から、センスのいいビギナー諸君のファッション感覚に期待し、エ−ルを送りたいと思います。


c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 昨年9月、世界的なパイロット、ジミーとタミガーが、ここ岩屋山へ来山した時、ほとんど水平で飛行するコンペ用のスピード追及型ハーネスにびっくりしたものだが、今年の春にはもう各メーカーから同様のハーネスが売り出され、パラ業界もスピード追及型になっていることを知った。

 そういえば今年の春、DKの加賀山さんと武尾さんが、ひょっこり訪ねて来た時のこと。ひと飛びした後、ランディング場で、加賀山さんがフライトスーツの袖の下から、なにやらうれしそうに出しかけている。

 はて?私に袖の下かな?と期待したら大間違いで、それがなんとダンボールで作ったスポイラー。何のために?と尋ねる私に、袖の有害抵抗を少なくするためさ、と冗談とも本気とも言えない答えが返ってきた。

 スピード追及時代、ハーネスでフライヤーは水平になり、ウェアーもますますスリムになって、トーグルを持つ手が空気抵抗を減らすほど。さらに腕にスポイラーとなると、それはもうバルタン星人。(でも、ウルトラマンティガでないと今の子供にはうけないぜ。)というわけで、近未来のパラフライヤーのギヤにますます期待したい今日この頃だ。


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