第3回 上昇気流と雲のお話

 風を観察しながらパラを練習していくと、いい風、まあまあの風、危ない風と、少しずつわかってくるはずです。人に人格があるように、風には風格があるのかな? なんて思わずにいられません。

 パラグライダーの楽しみの一つに、風の観察があると思います。高層気象は数多くのデータとスペシャリストの方々によって常々予想されますが、パラグライダーがフライトする地表から1500mぐらいのゾーンは、局地的に地形やその日の天気によって複雑に変化するので、まだまだ未知のことも多いのです。地表をとりまく風や気流の観察、実験、学習をしながらこのスポーツを練習していくスタイルが、ビギナーをインテリジェント(知的)スポーツへと成長させていくものと考えます。これによってたとえ短いフライト時間でも、風と一体となり、風に溶け込むようなフライトスタイルになるはずです。

 さて、今回は上昇気流と雲のお話をしてみます。

雲を作る実験をしてみよう

山火事でできた雲
山火事の上空にほっこりとできた雲

 5年前、私の住んでいる町で峠の山火事が発生しました。幸い火は1時間程度で消火しましたが、立ち上がる炎と煙の上に積雲ができるのではとカメラを構えて待っていたら、ほっこりとした白い積雲ができたところを、パチリとカメラに収めることができました。前回にも書いたように、小学5年生にパラグライダーをテーマに雲と上昇気流のお話を頼まれた時、まさか山火事を起こして雲を作って見せるわけにもいかず、目の前で簡単に実験してやることができないかと、これを機会に考え始めました。

 そんなある日、スクール生の足立さんが、ビーカーやらゴム風船やら実験器具がいっぱいのダンボールを抱えてやってきました。足立さんは学生時代、グライダーをやり、現在は農林の研究をお仕事にされていて、自然科学にはやたらと詳しいのです。

 雲は地表が太陽光線で暖められると、暖まった空気が軽くなって上昇していき、地表に比べて気温、気圧、共に低い上空で水蒸気が凝縮して雲になることはわかっていても、凝縮する時に空気中のチリが核となることは意外と知られていません。その核となるものを実験では線香の煙でやってみます。すると、ビーカーの中て雲もどきができます。まぁ、単純な実験なので、遊び感覚でやって下さい。


実験
雲を作ってみよう!

 用意するものは、ビーカー2個、氷、ゴム風船、線香、40度程度のお湯、作り方は図の通りです。

 空気中のチリを核に雲ができることを身近なことで観察、実証してみましょう。冬、雪雲から降ってくる雪は白くてきれいに見えます。白雪姫というぐらいだから…。ビギナーの皆様の多くは冬にスキーやスノーボードを楽しんていると思います。スキーやスノーボードは滑走中、滑走面に静電気が発生し、雪の中のチリを拾い集め、滑っているうちにだんだんと黒く汚れて滑らなくなる経験をしていると思います。この汚れをきれいにとってワックスを塗ってやると、よく滑るようになります。その点、カーボンの滑走面は静電気を逃がします。ジャンプや競技用の黒い滑走面がそうです。春、雪溶けのスキー場がうす黒く汚く見えるのは、雪にふくんでいた空気中のチリのせいです。

 工場の高いエントツから上昇する煙や、自動車の排気ガスから出る硫黄酸化物、窒素酸化物が上空のチリとなり、核となり、雲となり、酸性雨(雪)になり、地上に降ってきます。空を汚すと地上も汚れてしまうわけです。いつまでもブルースカイで飛びたいものです。

羽根アリやスパイダーだって風を観察している?!

 さて、上昇気流は時として香りがあります。私の好きな風の香りは、春、ホーの木(香木)の白い花の咲く谷から上昇してくる風です。とてもいい香りで気持ちがスーっとします。

 上昇気流に乗って飛行するものに、羽根アリやスパイダーがいます。山頂でテイクオフのタイミングを狙っていた時、そろそろと思った瞬間、ふと目の前から小さなスパイダーが細くてキラキラ光る糸を出し、上昇気流を地表からつかみ、あっという間にテイクオフ。また、ある時にテイクオフの切り株の巣穴から無数の羽根アリが飛び立つのを見ました。彼らも同じ時間、同じ場所でじっと風を観察して旅立ちのタイミングを図っていたのかと思うと、ぞくぞくとしたものでした。

 いい香りのする谷間の上昇気流の中で、トンビのピーヒョロローのサウンドを聞きながら、ほっこりとした白い雲へ向かい、穏やかに上昇していき、子供の頃から夢だった雲に乗る…。

 これがバラグライダーだと思います。

c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 昨年、プロゴルファーのジャンボ尾崎さんが48歳でプロ入り100勝を達成。我々中高年の現役スポーツマンに勇気を与えてくれた。

 そのジャンボさんが自分の家の回りに練習場と合宿所を作り、若手を養成しながら自分も練習している。『教育』ではなく『共育』なのだとテレビで言っているのを聞き、いい言葉だと思った。

 私もスクールを運営しながら自らのフライトを練習し、一年中いろいろなお仕事をしている方達と出会い、教えることより教えられることも多く、同じスポーツをしながら共に育っている感じがしている。

 活字時代に育った私に、若いスクール生達が、インターネットのことやパソコンのことなど、最新のことをわかりやすくいろいろ教えてくれる。『共育』。本当にいい言葉だよね。


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