第2回 風はどこからやってくる?

 パラグライダーは目に見えない気流を相手にするスポーツなので、風との対話とよ く言われます。

小学校での夢体験
大阪府池田市の小学校で創立120周年の夢体験

 昨年の夏、私の所へ小学校の理科の先生が訪ねてきました。小学5年生になると、一週間の野外活動の授業があり、その機会にパラグライダーをテーマに小学5年生で学習する風と雲について体験学習をさせたいという前代未聞の発想にびっくり。で、人数はと聞けば、67名! とこれまたびっくり。

 講習当日、天気と風に恵まれた絶好のパラ日和。機材もスタッフも十分に揃えて待っていると、はるか道路の向こうからワイワイと自転車に乗ってやってきた。その数に圧倒されそうになるが、ここでひるんではいけない。夏の暑い日だったので、半分の児童を日陰に集めて、風と雲についての話を始めたが、雲をつかむような話に全員の目は、飛び始めたもう半分のグループのパラグライダーへ向けられて、私の講義は「うわの空」。それでも全員、無事2回ずつの浮遊と風と雲の話を聞いて、またしてもワーワーともと来た道を帰って行きました。

 この貴重な? 経験をもとにビギナーの皆さんに、風と雲の話をしましよう。

パラグライダーを浮遊させる風

 私の指導体験から言うと、スクールにやってくるほとんどが、それまで日常生活で風や雲を意識することのなかった人だと思います。自然の中で遊ぶことに慣れていない人が、いきなり北風の吹くテイクオフへ見学に行き、冷たい風に吹かれただけでナミダがポロポロ…。今までの日常生活とこのスポーツを取り巻く環境とではすごいギャップがあります。

 では、パラグライダーを浮遊させるエネルギーを持った、風や気流について分かりやすく学んでみましょう。

実験
実験をやってみよう!

 日常なにげなく接している風はどうして吹くのだろうか、なんて考えたことがありますか。冬、暖房で暖かくなった部屋で冷たい方の部屋の戸を開けたら、すーっと風が入ってくる事は、誰でも経験があると思います。この事をもう少し学習すると、地表の空気は温度の低い(空気密度の大きい)ところから、温度の高い(空気密度の小さい)方へ流れるので、風になるというわけ。シベリア大陸から雪を連れてやってくるピューピュー北風がこれです。

 もう一つの風は上昇気流がつくります。冬、ストーブの上で羽毛や薄い紙などを浮遊させて遊んだ経験は誰でもあるでしょう。フワァーと上昇した羽毛がある程度上昇すると、回り込んで落ちてくる。暖まった空気が上昇して回りから空気が流れ込んで風を作ります。この上昇気流に関しては、次回、雲と一緒に説明しましょう。

 今回は冷たい空気が暖かい空気の方へ流れておきる風をいろいろな例で説明します。

海風と陸風、山風と谷風

 ビギナーが練習する講習場は、海辺か山間部です。海辺の風は、海風と陸風があります。海風は日中、海より陸の方が暖まるので、海から陸へ風が吹き、パラグライダーはこの海風を利用します。陸風は、夜、陸の方が冷えるので陸から暖かい海に向かって風が吹き、朝早くサーファーはこの風でできるいい波で練習をするのです。

 さて、山間部の講習場では谷風と山風が吹きます。谷風は日中、暖まった山の斜面に向かって、平野部から吹く風です。斜面を使って練習するパラグライダーは、アゲンスト(向かい風)となる谷風を利用します。山風は、夜、山が冷えて暖かい空気が残っている谷(平野)に向かって吹く風です。パラグライダーにとっては、フォロー(追い風)となり、フォローのしようもございません。

 私のスクールの講習場は山間部にあり、10年間、毎日のように講習場を観察しているとおもしろい事に気付きます。講習場は西向きなのでスロープ全体が太陽に照らされるのは、季節によって違いますが、11時位になります。スロープ全体が太陽に照らされるまで、たとえ上空の雲が西から東に流れていても、山風の弱い下降気流があり、あまりパラグライダーは浮きません。斜面全体に陽が当たり暖まってくると谷風となり、パラグライダーも良く浮くようになります。

教訓?! ビギナーは体も斜面も暖まったら頑張ること。

ただし、斜面が暖まりすぎると講習場から強い上昇気流が発生するので、そんな時はインストラクターの指示に従って翼を休めた方が賢明です。

 もう一つの風に、冬シベリア大陸から吹いてくる冷たい風が、日本海の湿った空気を引き連れて日本列島を縦断している山脈にぶち当たり、日本海側に雪を降らせ、乾いた強い風が太平洋側に吹く、『おろし』があります。阪神タイガースの歌にもなっている、六甲おろし、蔵王おろしとか、上州のからっ風とか呼はれるもので、かなりパワフルな風です。

最適な風速をみつけよう

 パラグライダーのビギナーにとって、最適な風速は3〜4mぐらいでしょう。ちょうど五月のコイのぼりのコイ達が、大きな口(エアーインテーク?)から風を胸一杯吸い込んで、気持ち良さそうに大空を泳いでいる時の風。パラグライダーは風速6mを越える風では飛行しないようになっていますから、ビギナーのうちは3〜4mぐらいまでの風で練習するようにしましょう。

 風を観察するものとして、一番ポピュラーなものが、どこの講習場にでも必ず立っている「吹き流し」やナイロンテープを付けたものなどがあります。が、気まぐれ風のいたずらで、これらのものが絡んだり、ポールの帽子となっていたりするのを見付けたら、すぐに直してやりましょう。

 上空を流れ行く雲の方向やスピード。海、湖、田んぼの水面の白波の立ち具合。草原の草のざわめき、木々の小枝や葉っぱの揺れ具合などで風の方向や強さ、サイクル等をじっと観察するだけでも、風とお話をしているようで、まるでそれは空飛ぶ宮沢賢治になったような気持ちになれるはず。

 こうしていろんな風を観察、学習してみると、地表の空気は温度の低い(空気密度の大きい)ところから、温度の高い(空気密度の小さい)方へ空気が流れて風になるということが分かってきたと思います。これぞ、『風流之道』ファーストステップです。

 ビギナーの皆さん、また風のことが分からなくなったら、部屋のドアをそっと開いてごらん。冷たい風がスーっと入ってきて、さあ外へ出て空で遊ぼうと誘ってくれるから。

 では、次回は雲と気流についてお話しましよう。

c o l u m n
こんなこと、あんなこと…

 講習中、斜面に座り生徒といい風が吹くのを待っている間、逆にいろんな事を教わることがある。例えば銀行で仕事をしているOLの方に、そこらに落ちている木の葉を拾い集めて、タヌキやキツネのマネをしてお札の数え方をやってもらうと、銀行によって色々と違いがあることが分かった。都会に住んでいれば分かっているはずのささいな事でも、山奥でひたすらパラ色の人生を送っていると、生徒から教えてもらうことも多く。風待ちも楽しいものだ。


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