PWC 第一戦 メキシコ編 その14 (02/01/19)


2002年 Paragliding World Cup 第一戦 メキシコ編 その14

1月19日 TASK7 その2 最終決戦

タスクが決まり、テイクオフゲートオープンまで30分。この間に、チームメイトとともに戦略をたてる。絶対に勝つためには3人中2人が10位以内に入らなければならない。それを実現する為には、緻密な作戦会議をしなければならない。あとは、今まで学んだ事を全て出せばいい。自分を信じて実行するのみ!
チーム会議の後、再度機材の点検をする。点検が終わるとゲートが開くまで何も考えない。全てやったから、待っている間は集中力を増すために頭の中を空っぽにする。近くに同じように虚空を見つめているやつがいる。アメリカのスコットだ。彼は、現在の所「首位」。今日シングルに入れば優勝する可能性は大きい。やつには頑張ってもらいたい。なぜならば、ヨーロッパで生まれたパラグライダーというスポーツで、ヨーロッパの人以外でも活躍できる事を証明してほしいからだ。一昨年、スペインで辻強さんが優勝したのは感動的だった。 勝ってくれよ!スコット。

12:45 ゲートオープンの時間になった。次々と大空へ飛び立っていく。最初の人が、上昇気流に乗ってセンターリングを始める。すると、その次の人が同じように上昇気流にのる。数分後には、数十機というキャノピーが同一方向で旋回をしている。空のキャンバスに、色鮮やかな花びらが舞っているようだ。
それが、小さくなる頃に次の上昇気流を探しに飛んでいく。
地上では、そう見えるのだ。

オレもみんなに続いてテイクオフした。
いつものように上昇気流を探して、いつものようにコントロールする。最終日だから、といって特別な事はない。確実にいいポジションにつくために周囲を観察し、移動する。これも、いつもと同じ。大切な事は、いいスタートをして、スパートをかける場所を間違わないこと。最終日だから、ほとんどの選手はギリギリの線で攻めてくるはずだから、スパートをかけるポイントはいつもより早いタイミングになる。それを間違うと大きく順位を落とす事になるだろう。でも、スパートする時に熱くなると何かを見失い失敗する。
冷静さは、いつ何時も必要なのです。

スタート時間が迫ってくると、とても時間が長く感じる。だいたい、1周旋回するのに30秒ぐらいかかる。2周で1分。あと何周周ればスタートになると、計算している。スタート2分前になると、必ずフライングして先にスタートポイントへ行くやつがいる。それに惑わされてついていくやつもいる。

空中で「待つ」為には上昇気流の中にいなければならない。早く行っても高度をロスするだけだから。

13:45 やっと、レースがスタートした。
最初に行く人は、だいたい同じメンツだ。低く行く人、高く行く人、これもだいたい同じ。性格ってやつかな?
スタート後の最初のターンポイントへは、ほとんどまとまって通過し、そこからリッジを通って次を目指す。そのリッジでは、多分地上からみると、みんな仲良く縦にならんで飛んでいるようにみえるだろう。リッジに発生する上昇気流は、山肌から離れるとなくなるから、飛んでいく為のスペースが限られる。
その中、10機ほどの先行グループがいて、200m後ろにオレを含むセカンドグループが続く。さらに、後方はずらずらーっとならんでいる。オレは、作戦通りだ。次のターンポイントは台地上で、先に行くのは対地高度が取れないためにリスクが高く、先行グループが上昇気流を見つけた後に、高くそこに行ってあっさり逆転を狙う。

狙いは的中だった、が、ターンポイントを通過した後のサーマルに乗り切れない。地面まで残り200m。

いきなりピンチや!

「そらみろ!策に溺れたらあかんのやで!」
と、言わんばかりに他の人は上がっていった。なんかズレていたのかなぁ?
こんな時は、慌てない。絶対に上がるポイントはある。みんなとは違うポイントまで行ってからやっとまともなサーマルが見つかった。
時は遅し!で、やつらは、雲底まで上げきって移動を始めた。しょうがないか、、、せめて、先行した集団にチームの仲間がいれば、と探すがいない。これは、やばい。また昨日のように、チームポイントが0点になるぞ。
いや、今日こそ来るはずだ。仲間を信じるしかない。今、オレがすべき事は、ベストフライト。このピンチを乗り越えて、やつらに追いつき追い越しひっこぬくのだ!
その時、同じサーマルで一緒に旋回していたやつがいた。オリビエ・ネフ スイス人パイロットで、メーカーのテストパイロットをしている。彼は、世界的に有名な選手でもある。ちなみに、現在のところ首位のチームパイロットでもある。やつには負けられない。でも、ゴール間近まで仲良く飛んでやるか。

雲底から次のポイントへ乗り継ぐコース取りがオレと同じで、やつもなかなかやるもんだ、と感心しながら飛んだ。これがまた大成功で、ショートカットもいいとこ。先行集団は、少し左に膨らんだコースだったところを真っ直ぐ行った。さらに、先行集団は高度を失い、サーマルを探しているところにもぐりこめたから、結果的に追いついた。

そこで上げきった頃、白いブーメランが一機、いつの間にか一緒になっていた。
レネである。
やっときた。

仲間が来た。

オレは、俄然やる気が出てきた。最大出力120%でいっちゃいますか。
なにはともあれ、ネフには負けられない。よーし!ここが正念場だ!

雲を見て、コースを定める。
車のレースと違うのは、3次元で戦いだから。場合によっては遠回りもするし、真っ直ぐ20km飛ぶ事もある。道は、ない。決められた通過点へは、地球の裏側を通ってもかまわない。
いいコースは、サーマルであげる回数が少ないコースなのだ。もう、残る通過点は2つ。あと1回サーマルに乗ればゴールまで一直線になるだろう。

レネが低く行き、ネフとオレが高く行く。
3番目のターンポイントを通過して、最後の通過点であるテイクオフの近くにあるアンテナに向かう。
俺達の先には、十数機いる。追いついても追い越される。それを繰り返しながら進んでいる。だから、1周無駄に旋回するだけで、順位を落としてしまう局面になっている。レネは、ギリギリのところでも旋回しない。それでも、「降りそうだ。」なんて考えてはいないだろう。確信が無ければ無理はしないから。
ガツーン!と、レネが上昇した。すぐにネフとオレが行く。良い上がりをしている。一気に高度を稼ぎ、最後のターンポイントを通過して、ゴールへ真っ直ぐ行く。先行しているのは、10機ぐらいいそうだ。数えたいけど、今はそんな余裕が無い。

15kmほどの距離を、ただひたすら飛んでいく。
ネフは、すぐ横にいる。こいつには負けない!

長くなりそうなので、続く・・・

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