PWC 第一戦 メキシコ編 その9 (02/01/15)


2002年 Paragliding World Cup 第一戦 メキシコ編 その9

1月15日 TASK3

AM 8:30 タコスの屋台で朝食を取る。ヨーロッパの人は、手で食べるのは不衛生と思っているのだろうか、誰も食べに来ない。俺達は、すっかりマブダチでカタコトのスペイン語で注文をする。ここでは、タコスだけではなく、牛タンスープっぽいものもあって、夜間、身体が冷え切った朝なんかは暖かいスープが好ましい。量的には多いのだけど、昼間は飛んでいるので朝に腹いっぱい蓄えておかなければ力が出なくなってしまう。おまけに、トルティージャ(タコスの生地)は腹持ちが良い。

レースの方は、、、
昨日の失敗が大きく、総合順位は36位に転落した。今日からが正念場で、一本一本を慎重かつ攻撃的にいかなければ成績はでない。今年は、確実に結果を出す年だから。去年のような苦い経験は二度としたくないから。
コンディションは、今日こそは良い感じだ。テイクオフレベルで逆転層はあるものの、昨日と比べていくぶんマシだ。風向きの予報は、南西〜南で弱い。南西の風というと、テイクオフに対して斜め後方からの風になる。
正午を過ぎる頃、台地の上に積雲の小さなヤツがポツポツ出来始めた。良い感じや。

この日決まったタスクは、いつものスタートポイントからリッヂを2往復してテイクオフから北に約35km先にあるゴールへ行くものだった。一見簡単そうなタスクだったのだが、今日もドラマがあったのだ。

AM11:45 テイクオフゲートオープン
いつものサーマルポイントで上昇する。が、思いのほか上がらない。なんと、テイクオフから300m上空から風向きが180度変わっている。通常ならば、上げていくと自然に台地の上に到達するのに、今日は逆で離れていってしまう。それでも、台地上のサーマルの方が斜面のサーマルに比べると獲得高度が高いので、絶対にキープするべきなのだ。具体的に説明すると、通常は2500mで台地上は3200mの大きな差がある。
スタート10分前の段階でそれが出来たパイロットは122人中、半分であった。
なぜならば、風が収束しているのか、時折その風は強くなって(対地速度が時速10km以下になることもあった)台地の上に留まるのは困難なものだったから。

AM12:30 レーススタート
台地の上のサーマルからスタートに向かったグループ、数10機は、スタートポイントを高い高度でクリアし、再び台地の上に戻る事が出来たが、その他のグループは、地上まで降りる事はないものの苦しい展開になっていた。
台地上には、レースを捨ててどこかこのまま飛んでいきたくなるほど気持ちの良いクライドストリートが出来ていて、生き残った8機のグループで次のT.P.に向かった。
「世の中そんなに甘くない。」T.P.まで2kmの地点からは、天国気分が一気に逆転!下降気流に、はまった。
台地上は標高2200mでそこから900mほどサーマルで上げた高度は高いとはいえない。それは、2回ぐらい下降気流にはまってしまうと終わってしまうのだ。それだけ、シビアな高さなのだ。おまけに、台地の上は起伏が少なく、サーマルが出ると予測するのは困難なものになる。
T.P.を通過する頃には、対地高度は400mになっていて、一緒にいた半分のパイロットは、台地上から通常飛んでいる斜面へ逃げた。こちらの方が高度にマージンを取れるから。
オレは、賭けだった。低いが、斜面に逃げると後々高度を稼ぐのが大変になる。そうこうしている間に毎秒2mで地上が近づいてくる。シンキングタイムは、10秒。
「絶対に、大丈夫!オレなら出来る。ここはオレにしかないチャンスなのかもしれない。」
その瞬間に生きる事。絶対的な精神力を持ってすれば、サーマルがオレの方へ来るはずだ。
対地高度100mを切って、足元には農作業している家族がいる。手を振ったら、それに答えてくれる。
おっと、手を振っている余裕なんかない。
一点集中する。
あった。弱くまとまりのないサーマルだったが、慎重にコントロールすると徐々に、毎秒10cmで高度は増していく。気が付くと、頭上に雲が出来ていて、サーマルもコンスタントに3mで上がっていた。

オレがもたついている間に、トップ集団は5km先に行っていた。まだ、追いつく距離だ。奴らもゆっくり慎重に駒を進めている様子だったので、オレも台地上で慎重に行った。なぜならば、次のT.P.は台地から5kmも離れた平地の上にあったからだ。トップ集団が、ある程度の高度で見切って行ったのに対して、俺はそれより少し高く行ったがそれだけでは追いつかない。先行グループを見ながら少しでも効率の良いルート探し、少ないロスで次のT.P.で追いついた。
あとは、ゴールまで35km飛んでいくだけ。ポジションは悪くなかったが、台地を離れる為の最後のサーマルで差がついた。オレはスタックし、奴らは上がっていった。ほんの少しの差が大きくなる。それがレースと言うものだ。
やっと捕まえたサーマル地点からゴールまでは22km。グライディングの計算では高度が足りないが、経験から考えると行ける確信があった。ゴールを見つめて真っ直ぐグライディングさせる。緊張感と、やがて来る達成感のふたつの感情が複雑に絡み合う。

あと9kmで高度は1800m。ゴールの標高は1400m。たった400mで9km飛ぶことは不可能だ。
確実にゴールする為に、2200mまで上げなおした。
左の方から低く追いかけてくるやつがいた。「負けるもんか!」と、加速する。負けるわけにはいかないのだ。個人でプレーしている時は、数秒差ならば得点としてみるとたいした差はないのだが、鼻の差でも順位が良くないとチームとしてのポイントは上がらない。
そして、そいつには勝った。後ろを振り返れば、続々とゴールへ向かって飛んできている。

16:02 ゴール。
後半のスタックでかなり順位を落としたかと思っていたが、トップから30分も遅れたものの、10人目のゴールだった。この日のゴール者は32人。
チーム対抗は、扇澤さんが6位で、この日も首位で20ポイント獲得した。この対抗戦では、ぶっちぎりのポイントだ。
総合順位は、24位でこの調子で一気に追い込んでいけそうだ。

今日も、夜空に輝く星がとても綺麗だった。明日も良い日になりますように。

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