日本海、舞鶴湾。遠く水平線のかなたを見つめて静かにグライダーは飛行して行く。海面までの高度は400M。真下にレスキューボートが見えたらマヌーバーの開始。これから始まろうとしている異常飛行状態への期待と不安が高まる。ヘルメットに内装しているインターコムの無線から扇澤さん(日本人で唯一DHVのマヌーバーを出来る方でミウラドルフィンスキーでは後輩に当たる)から落ち着いた声で 『スピンに入れて、フルストールのち回復』
手順はT.Oで小野寺さん(ジェット旅客機からパラまで操縦出来るスーパーパイロット。パラ全日本選手権者)から、説明を受けているので不安はない。『では始めて下さい』の声で、指示通りやる。あっけなくあざやかに決まる。なーんや簡単じゃん。
『TAKさんのパラはボレロなので、次はもっと強くやってください』
『よっしゃ!やったるで』気前よくガーンとトーグルを腰まで下げる。くるくるくると景気良く回って来たので両手を腰まで下げて手を上げたとたん、翼はいきなりシューティング。垂直に立って海にむかって落下。体だけが残る。無意識に『オー!』と叫んでいる自分に気づく。次にほとんどフリーフォール状態で体が翼にむかって落下。異常飛行状態の発生だ。バーンと音がして翼が頭上に来る。ほっとする間もなく翼があばれて私はタコ踊り。
『TAKさんフルストール!』の無線で両腕を腰まで下げてフルストール。やっと頭上におさめてゆっくり手をのばしやっと安定飛行。ヒュー!思わずため息をつく。
『ちょっと、いい過ぎました』と扇澤さん。
『インターコムで悲鳴が入らなかった』とジョークを飛ばす。
無事生還したうれしさでハーネスで後ろにひっくり返って頭を下に逆立ちして飛行をする。
大海原をさかさに見て飛ぶのは気持ちがいい。天の橋立の股のぞきは昔から有名だが、逆立ちして上空から見れるとは、昔の人も想像すらしなかったでしょう。