私はクリスマスツリー (98/11/30)


 11/29学科試験。ロールアウトさんと合同で67名、全員合格。試験終了後、全員、快晴、絶好のパラ日よりの岩屋山へ。スタッフも飛びたい気持ちをぐっとおさえて、T.O長野さん、L.D校長、グリーンパーク正一郎と散り、昼飯ぬきでバンバン飛ばした。

 翌日、11/30は月末。各メーカーへのお金の振り込みはユカにまかせて、昨日の反動で飛びたい病の発作がはじまった。この病気は飛ばないと直らないやっかいなもの。正一郎とチェックフライトをする新品のグライダーを2機持って山に上がる。登り口の岩屋山、南斜面は南西の風がきつく、各スクールの車が『風が強いよ』と降りて行く。T.Oに立つ。風は西、東とコロコロ変る。パラを広げて、T.Oの風を待つ。西で待っていたら東から入ったので、スッと移動しリバースでパッとT.Oした。飛び出した瞬間、しまった! と思った。まるで渦の中を飛んでいる様なつかみどころのない気流。もどれるものならもどりたい気分。

 ノーマルルートに入ったところで、機体は大きく揺れ、潰れが始まった。最初は落ち着いてリカバリーをして回復させていたが、潰れは加速度的に激しさを増し、それはまるで谷川の渦の中で翻弄されている枯葉の状態。なんとか、回復したものの、今度は激しい下降気流。あっと言う間に森が迫ってくる。枝ぶりのいい木に止まろうなんて言ってられないまま、バキ、バキ、バキ...。

静粛。生きている。ケガは? ・・・・・・。ない。

 次に地上を見た。25Mはある。おまけに、きれいに枝打ちした檜。私はクリスマスツリー!となってしまった。とりあえず、無線でT.Oにいる正一郎に無事であることと、状況を連絡する。

 ハーネスのバックルをはずして木に抱きつけば下に降りられるが、もし落ちたら確実に死ぬか重症だろう。セオリー通りハーネスからツリーランセットを出して、自己確保して、レスキューを待つ事にする。T.Oからツリーランするまで何度も短い時間の出来事を頭の中でリプレーしてみる。この山でタブーとされている強い南西風の中、T.Oして北の谷のローターにつかまったのが原因。20分ほどで正一郎が木の下までたどり着き、あきれた顔で上を見上げて『オレの言うことを聞いてくれたら降ろしてやろう』と叫んでいる。足場もなく、宙づりになっているので立場はきわめて悪い。ヤツの要求は、金か、女か、上と下で森の静粛の中に緊張がはしる。『とりあえず言ってみろ!』『洗濯機を買ってくれ。』気がぬける要求だ。ヤツの言い分は、昨年、吉川さんが家で犬のエサ入れに使っていた洗濯機を持ってきてくれたが、こわれて電源を切るまで回り続け、中の物はボロボロになってしまうので、新しいのが欲しいと言うことらしい。

 そんなインデアンとの交渉をしているところへ、早、ロールアウトの加藤さんとパラ仲間が5名、レスキューに来てくれた。まず、正一郎がオレのぶら下がっている木に登ってくる。いつの間にか身に付けたするどいクライミング。さすが、登山家、半谷さんの元へ、3年修業に出していたことはある。スルスルとオレの位置からさらに登って、オレをハーネスごと上からつり上げるロープワークをする。セットされたところで、下からロープを引いてもらい、ライザーのテンションを緩め、カラビナとライザーをはずし、井戸にスイカを降ろす要領で下降してもらい無事ランディング。滞空時間2時間!?

 正一郎はすでに30M以上も上の檜のTOP近くまで登って、ラインを全部はずしているが、もう一本の高い檜に登らないと機体は降りてこない。その為には上からロープを垂らさない事には登れない。ロールアウト加藤さんのアイデアで細いコンペラインに石をくくりつけて、投げて、上の枝に引っ掛ける作戦。『だれか野球をやっていた人いない?』『ボク野球部でした』と名乗り出たのが、本日、たまたま忘れ物をとりに来ていて、この騒ぎに巻き込まれたノリちゃん。『ポジションは?補欠?』と、厳しいチェックが入った後、ノリちゃん一投目。石だけが、森の中へ消えていった。

 その様子を木の上から見ていた正一郎『ノリちゃん何やってんの』次に正一郎が隣の木の上から細いロープの先にカラビナをつけて投げたのが一発で枝にひっかかり成功。その先に加藤さんの持って来たロッククライミング用のロープを吊り、30M以上もある垂直のロープが空の上から垂れている感じ。加藤さんが登山用のハーネスとユマールを装着して登ると言う。こんな難度の高いクライミングは2度のヒマラヤ遠征でも見たこともない。ユマールを改良したクライミングギアーを使って、ゆっくり、ゆっくり着実に登って行く。それはまるでスパイダーマンだ。檜のテッペンは大人のウデ程の太さしかなく、体重をかけるとしなっている。もし折れたら確実に死ぬ高さだ。

 加藤さん、正一郎2人の命がけの救出のおかげで、体も、機体も無事、地上に戻ることができ、ホッとした時、『TAKさんお茶どうでしょうか?』と岩屋の主、蔀(シトミ)君。こんな森の奥に自動販売機があるのか、と思わせるぐらいの不思議な出来事だった。空を飛んでいても、地上にいても、不思議なヤツだ。昼めし前にツリーランしたので体はドライフラワー。水分が体にしみわたる。蔀君ありがとう。

 かくて一足早い、クリスマスツリーは無事回収されて、全員下山となる。雨がポツポツ降り出してきた。オレのハーネスをしょって正一郎が前を歩きながら『洗濯機こうていや!』『ヨッシャ!正一郎、オマエごと入って洗える、でかいやつを買って来い。』

 ロールアウトの加藤さん、正一郎、岩屋のパラの皆さん本当にありがとうございました。


[ホームへ] [思いつきへ]