初飛びレポート by  多養哲治 (01/01/07)


 平成13年1月7日、日曜日。曇り。とても寒い。天気予報では、前線を伴う低気圧の接近のため、午後には激しい雨か雪。

 スクー ルに行くことができる日は、毎月の勤務予定表からおのずと決まる。次に行ける日を考えると、これでも貴重な1日、とりあえず行くしかない。家内のひんしゅくをかいながら、それでも、わくわくしながらめざすTAK。青垣町まで来ると、山は雪化粧。

 9時前に、事務所に着いたが、アサレンで、既に山にあがった様子。校長から無線で事務所にいる人は、すぐ山にあがるよう指示がある。あとからスクールに到着した人達は次々と山へ向かう。とても慌しい緊迫した雰囲気。

 年始からの悪天候で、今日がTAKの2001年初フライトとなる模様で、このため、校長はじめ、みんな気合が入っているのかなと、ABコースの私は気楽なもの。無線でのやりとりでは、風は初心者向けどころか、徐々に強くなってきている様子。

 今日はグリーンパークでの練習もダメかな?曇り空を見上げながら、あれこれ考えを巡らす。みんながランディングを終えたら、そこでミーティングでもして、今日は終了といったところかな?

 誰もいなくなった事務所前でシミュレーターにぶら下がり、このあとの今日の残り時間の使い方をせっせと考える。頭の中は、既にお帰りモード。

 ところが、どっこい、2001年初飛びを終えた爽やかな笑顔の校長から、「山にあがりましょう」とのお言葉。えっ、いきなり?

 これにより事態は急変した。以前から、先輩諸氏から、初飛びは、いきなり声がかかるから事前によく準備をしておくようにと聞かされていたが、このことかと妙に納得するも、この後は、機材を積み込みクルマに飛び乗り、慌しく事は進み、心の準備をする間もなく気が付いたら、そこは山頂。

 フライト準備で混雑する山頂で、周りの人にそっと尋ねる。どうやら、ここが南テイクオフらしい。ということは、その昔、タンデムをしてもらったときに出たところは、西テイクオフだったのだと、今頃になって知る。

 思い起こせば、ABコースの2回目のときに、事の成り行きで、いきなりタンデムをして頂いたが、勿論その頃には、初飛びのことなど全然頭にない。だから、「すっげぇー !」と、感動しているうちに、あっという間に終わってしまった。

 当然どこをどう飛んだのかなど覚えているはずがない。おまけに、そのときは、ランディングでの誘導の都合で、山頂に着いたら直ぐに一番手で飛び出たものだから、実際の山飛びではどのようにテイクオフしているのかとか、フライトの準備はどのようにするのかも見る間もな く、ましてや、テイクオフの場所がどんな場所かすらも実感することもなくその場を飛び去ったのであった。

 あれから、2か月。あらためてテイクオフに立ち、下を覗き込む。げぇっ、高い ! 
  斜面はきつく長さもわずかしかない!

 驚いているうちに、非情にも自分の番がきた。最近ようやく慣れてきたラインチェック、このときとばかりと、はりきってやろうとすると、先輩の方々が手際よくしてくださる。非常に恐縮。フライトすることだけに集中してください、と校長。確かに今の私には、もっともなお言葉。

 テイクオフすることを無線で伝えようとするが声がうわずってうまく言えない。斜面のこの方向に向かって進んで、あそこを越えるまでは離さないで、とか、色々と指示を受けるが、ただ、「はい」、「はい」、と答えるだけで精一杯。

 そんな、緊張いっぱいで爆発しそうなときに、それを気遣ってか、校長が、「では、やってみましょう」と、あまりに、さりげなく、さらりと言われたものだから、拍子抜けしてしまい、「えっ、本当にいいの?」と半信半疑で、とりあえず、いつものようにやり始めてみる。

 「ひょっとして、立ち上げのところまで、まずやって、一旦、止めて、その後に本番という意味だったのだろうか?」

 「えっ、このまま行くの?」「えっ、うそっ!」「わぁっ!」

 気が付くと、足元遠くにうっすらと雪をかぶった木々が見えた。風の音がする。飛んだ...

 なんだろう、この感覚は。一日体験で、初めて地面から体が浮かび上がったときに感じた、紙飛行機になったよう な、あの感覚?似ている。けれども違う。

 いままで部屋の中をふらふら飛んでいた紙飛行機が、自らの意思で開いた窓から外に向かって飛んで行き、風に乗って大空へ舞い上がった?無線の誘導で我に返った。

 「21世紀の初飛びの日が、初飛びだなんて、ラッキーだね」と、慌しく山に上がる途中、どなたかが、声をかけて下さいました。そのとき、当の本人はそんな幸運を感じる余裕など全くなありませんでしたが、今は、色んな意味で貴重な初飛びをさせてもらったこ とを心から感謝しています。

 グリーンパークで初めて地面から浮いたとき、この世界にはまってしまった気がしました。岩屋山から初めて一人で飛んで、もうこの世界から抜けられない気がします。まだまだ、未熟ですが、これからもよろしくお願いします。

 P.S.はじめて立ったテイクオフは正直、怖かった。しかし、その日の帰り道、吹雪の中を、これまた初めてタイヤチェーンを巻いて、雪の山道を走ったことが、もっと怖かった。


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